みなさまこんにちは、もつでございます。
さて本日は、私の経験をもとに【奨学金を借りて私立音大へ行くというのはどういうことか】というテーマで書いていきたいと思います。
私立音大の学費は高いです。家族の経済状況では払えない、という方も多いでしょう。
そういった方のために、参考になればと思います。
はじめに
この記事は奨学金という「借金」を扱うものなので、書かなくてはいけないものがあると思い、こちらに追記します。
それは、奨学金を借りるのは自己責任だということです。
この記事を読んで「奨学金を借りて音大へ行こう!」と思ったとして、
万が一、返済ができないような苦境に立たされても、あなたを助けられる人はいません。
音大へ行くための奨学金となれば、かなり高額になるでしょう。親御さまや親族の方も、万が一の時に支えきれない可能性があります。
この記事を、進路選択の参考にしていただきたいですが、もし返済が困難になっても、私ふくめ誰も助けられないということ。
これだけは、しっかりと覚えておいてください。
奨学金で破産する方は、珍しくありません。破産すれば、さまざまな面で制約が設けられ、将来の幅が狭まります。
借りるか借りないか、周囲の大人とよく相談をして、決断をしてください。
繰り返しになりますが、奨学金で破産する方は少なくありません。そして、奨学金を借りて音大へ行った結果、あなたが破産する可能性は十分にあり得ます。
この点をよく留意して、進路選択をなさってください。
音大とはどんな場所なのか
みなさんは、音大に対してどんなイメージを持っていますか?
華やかな感じ?
お金持ちがいっぱいいるイメージ?
楽器のエリートが集う場所というイメージ?
夢見ちゃってる人の集まりなイメージ?
今の音大、特に私立は、本当に色々な科・コースがあって、色々な人がいます。そして学校によっては入学するのもそこまで難しくはありません(もちろん大学によりますが)。総合型選抜(旧:AO入試)もあり、ピアノが弾けなくても、あんまり楽典がわからなくても、入学することは可能です。
ですから入ってみると、本当に色々な人がいます。
もちろんゴリゴリのお金持ちなんだなぁという人もいます。ピアノ科で自宅にピアノがあるという人も珍しくないですし、ぽんぽんサックスを買えちゃう人もいました。
しかし私のように「学費は奨学金で頑張る」という人もたくさんいるし、ピアノが弾けない人や聴音が全然出来ない人もいるし、練習よりバイトっていう人も普通にいます。
つまり上下差がすごい環境、金さえちゃんと納めれば卒業までなんとかなっちゃう状況になっているのが、今の私立音大じゃないでしょうか(もちろん学校によりけりですが……)。
学費はどのくらいかかるのか
ざっくり、4年間の学費を考えてみましょう(金額は執筆時のもの)。
例えば昭和音楽大学の場合、1年次は入学金含め2,275,500円、2年次以降は2,020,000円です。4年間だと、8,335,500円。
洗足学園音楽大学の場合、1年次は前期・後期合計で2,190,000円、2年次以降は前期・後期合計で1,990,000円。4年間で8,160,000円です。
おおよそ私立音大の4年間でかかる学費は800万円ちょっとということですね。
ただこれは学費のみの金額です。ここに教職課程をとるなら追加で数十万、そして教科書費用などがかかりますし、専攻の楽器のメンテナンス費用、コンクールを受けるなら参加費(数万円程度)、そして交通費、食費などもかかってきます。
また楽譜代もばかになりません。クラシック系だと輸入楽譜を使用することが多いですが、一冊7,000円くらいするものもザラです。
このように、音大生というのは他大学よりかなりお金がかかるというのは覚悟せねばなりません。
進路
昭和音楽大学のキャリアセンターを例に見てみましょう。
2020年3月卒業のデータだと、実に38%の人が『一般企業』に就職しています。ついで『保健・福祉・介護・病院』が18%、『学校教員・教育』が15%です。
一方音楽系は、『音楽教室・バレエ教室講師』『演奏・舞台関係』『音楽関連企業』を合わせても28%程度ですね。『学校教員・教育』を合わせても43%です。
桐朋音楽大学を例に見ると、2021年3月の卒業生158名のうち83名が進学・留学しています。また教育関連も26名でこちらも音楽の先生や楽器店講師だと思われますので、3分の2は音楽関係と考えられます。
進路に関しては、音大によりばらつきがあると言えそうです。しかし今は音大を出て一般企業に就職、というのもまったく珍しくないですね。
音大に奨学金を借りていくということ
音大、特に私立のような学費の高い大学に奨学金を借りていくというのは、どういうことなのか。
ひとつ言っておきたいのは、音楽で食べていける人は本当に一握りということ。
そして音楽関係の道に進んだからといって、その後5年、10年と音楽で食べていける人はさらに少ないということ。
しかしながら、どんな進路であろうと借りた金は返さねばなりません。
例えば桐朋音楽大学の進路状況を見ましたが、多くの方は進学・留学でした。でもだからといって、桐朋音楽大学に入れば高確率で音楽の道で食べていかれるかと言われると、そこは直結しません。
進学・留学ということは、さらに学費を払ってどこかで学び続けるということ。多額の奨学金を借りてギリギリ音大に入ったような人が簡単に進める道ではありません。
もちろん努力すれば音楽で生計をたてるのも不可能ではないかもしれません。大学によっては、優秀な生徒は学費が一部免除になったり、奨学金が付与されることもあります。
しかしそれは一部の話。残酷な話ですが、どれだけ努力してもそのレベルにいくことが出来ない人というのは、います。
それは才能というだけではありません。先生との相性、奏法の癖、考え方など、それら努力の方向性を決定づけるものがひとつでも偏っていたり適切でなかったりした場合、どれだけ練習しようとも高い次元には到達できないのです。
4年間というのは大変短いです。その時間で他者と圧倒的な差をつけるためには、多くのことを犠牲にしなくてはいけません。バイトに明け暮れ、友達とも適度に遊びながら圧倒的な実力を身につけるなんていうのは、ごくごく一部そういうことができる人がいるかもしれませんが、大変なレアケースです。
楽器の道を続けた場合
例えば、音大に入って、そのあと音楽教室の講師になれたとしましょう。素晴らしいことです。
ではここで質問します。音楽教室講師のお給料がどのくらいか、みなさんは知っていますか?
仮に、音楽教室と自分で生徒さんの月謝を半分こにするシステムだったとしましょう。今大手の楽器店の音楽教室の月謝は、年齢等で差はありますがおおよそ8000円〜10,000円くらいです。
10,000円の月謝の生徒さんを20人もっていたとします。そしてその月謝の50%をもらえるとします。
この場合の月給は10万円です。これは手取りではありません。税金や社会保険料を抜く前の月給が、10万円です。
20人ということは、おそらく1曜日(火曜日だけ、日曜日だけなど)だと、自分のレッスン枠が完全に埋まるくらい生徒さんが集まらないといけません。
土日ならまだしも、平日だと立地によっては厳しいかもしれません。
しかもこれは生徒さん全員の月謝が10,000円だった場合です。通常、初心者はもっと安い月謝からのスタートです。
20人全員が初心者で月謝が8,000円だったとしましょう。月給は8万円となります。
もっと言えば、月謝の50%というのも、もっと少ない可能性だってあるわけです。
もちろんライブ・コンサートなどの出演料で、別の給料が発生するとは思います。
ですが、それでも手取りを一般企業サラリーマン並みにするのは、大変な苦労が必要です。
一般企業で働く場合
一般企業で働きながら、細々楽器を続けようかな、という道に進んだとしましょう。賢明な判断だと思います。
転職Hacksによると、新卒の平均月給は、226,000円(通勤費込み)だそうです。これにボーナスも出るでしょう。
こうなった場合に、例えば800万の奨学金を借りていたとして、どのような計算になるか、考えてみましょう。
JASSO 日本学生支援機構の奨学金には、無利子の第一種と有利子の第二種があります。今回は、なんだか超ラッキーで800万全額第一種で借りられたとしましょう。
240回払い(20年)で返還したとして、月賦返還だと33,333円が月々の返還額になります。
月給22万ですから、「あれ、意外と余裕かも?」と思ったかもしれません。
ところがどっこい、残念ながら22万は月給です。手取り額ではありません。
日本は税金や社会保険料を納めなくてはいけませんから、22万円そのままはもらえません。それらを抜いたのが、いわゆる「手取り」というものです。
dodaによると、月給22万の場合のおおよその手取り額は、165,000円〜187,000円だそうです。ざっくり手取りが17万として、そこから奨学金3万円が引かれますから、月々自由に使えるお金は14万となります。
そこから一人暮らしならば家賃、光熱費、そして通信費や交際費、生活費、食費等々を払います。社会人になれば貯金もしたいところですから、月14万でやりくりするのは大変です。
ちなみに、家賃は手取りの30%のところに住めと言われます。奨学金を抜いた14万の30%は、42,000円となります。
さらにネガティブなことを言うと
先ほどのシミュレーションを見て、「いや自分なら大丈夫」と思われたかもしれませんが、そう思った方は甘すぎます。
先ほどのシミュレーションは、かなりラッキーな条件を話しました。良い条件で、家賃4万なのです。
例えば給料20万だったらどうでしょうか?
dodaによると、月給20万の人の手取りはおおよそ15〜17万円です。そこから奨学金3万円が毎月引かれますから、手取り16万でも残るのは13万円。
もし一人暮らしとなれば、40,000円の家賃の家に住んだとしても、残るのは9万円です。そこから光熱費等々も引かれるとなると、自分のために使えるお金はほんのわずかです。
ちなみに都内で家賃4万となると、築30年くらいの物件か、築5年くらいで布団しいたらいっぱいいっぱいくらいの部屋になります。
また先ほどのシミュレーションは、800万全額が無利子です。これはシステム上無理です。もし800万全額を有利子の第二種で借りた場合は、月々の返済額も変わります。
そして楽器を続けるならば、楽器のメンテナンス費用や練習場所(カラオケやスタジオ)の代金も発生するでしょう。
こうした諸々のことを踏まえると、支出はかなり厳しい状況になると考えられます。
それでも行きたいなら、行った方が絶対にいい
と、なかなか厳しい現実を書いていきましたが、これを見ても行きたいのであれば、それはやっぱり行った方がいいと思います。
ものすごく考えて努力すれば、もしかしたら特待生となって金銭的に余裕ができる可能性もあります。夢を掴める可能性もあります。
良い条件で音楽を続けたり、良い企業に就職したりすることもできるかもしれません。
800万奨学金を借りるというのは、20代で800万の借金を背負うということです。なんだか詐欺広告とかで見そうな数字ですが、それが自分ごとになるということです。
それでも、音大でしかできない経験というのはあります。
第一線で活躍している人々を見る、そういう世界に飛び込もうとしている人々と同じ土俵で競う。そうした経験はやはりかけがえのないものですし、10〜20代でそういった経験を積むのは、人生において大きな意味をもつと思います。
ただ何度も言いますが、特に私立は色々な人がいます。お金に余裕があってなおかつやる気もそこまでじゃない人だってたくさんいます。
そういう人に影響され、ダラダラと学生生活を過ごし始めれば、800万というお金と4年という歳月は一瞬で溶けます。そしてそれは、後の数十年という人生に重くのしかかってきます。
4年という時間は、人を堕落させるのに十分すぎるほどです。成長するのにも十分な時間ですが、1年でやる気を失って、残り3年をダラダラ消化する人も珍しくありません。
今はそう思っていなくても、あなたがそうなる可能性だって、十分にあります。
刺激は凶器になる
音大は色々な人がいるので、例えば自分のはるか上の人も山ほどいます。
今あなたが、周囲より上手に楽器が演奏できるとして、もしそのレベルが音大だとまったく通用しないとなった時、あなたはどうなるでしょうか。
音大に行く人は、多かれ少なかれプライドがあります。そうした人々の多くが、「あなたうまくないね、下手だね」という現実を突きつけられるのも、音大という場の特徴かもしれません。
私はサックスでしたが、サックス専攻には各地の吹奏楽部でスタープレイヤーだった人とか、強豪校でがんがんコンクール出てましたとか、そういう人ばっかり集まります。
でもそれは、その部活内での話です。音大に入れば、その技術は普通か普通以下であることが常です。
今まで散々周囲から「上手だ」「すごい」「あなたみたいに演奏したい」と言われてきて、音大に入って、「下手だね」と言われた時。現実に直面した時。
よく音大は、多くの仲間から刺激をもらえると言いますが、その刺激は時として凶器になり得るのです。
現実を突きつけられて、心が折れて、その後どうなっていくか。その心境の変化もまた、人それぞれなのです。
音楽家の就職・転職
お金のはなしをした流れで、就職について書いておきましょう。
経済学部の人全員が金融関係に就職するわけではないように、音楽学部だってみんなが音楽関係ではありません。それは前述の通りです。
しかし音大生には覚悟しなくてはいけないことがあります。それは、就職は他の学部よりイロモノで見られがちということ。
音大生が就職活動をするうえで必ず聞かれるフレーズがあります。
「なんで音楽関係じゃないの?」
「音楽を続けたくないの?」
このセリフを聞くたび、もしかしたら心の中でこう思うかもしれません。
「続けられるもんなら続けたいよ!でも金は稼がないといけないんだよ!」
こういうのを、数ヶ月、何十回と繰り返します。一次面接で聞かれて、二次でも三次でも聞かれてなんてザラです。
企業はこう思うのです。
「こいつ入社してすぐに〈やっぱり音楽やりたい〉とか言って、辞めるんじゃないか?」
至極当然の話です。高額な学費を払って専門性の高い学校に行っている人間です。
音楽がほどほど好きとかじゃないんです。大好きなんです。それは企業側もわかっているから、不安に思うわけです。
そこをクリアしなくてはいけませんから、就職活動は余計なところで消耗します。活動前にちゃんと覚悟を決めることが大事です。
そして転職の場合。
例えば30歳になって、「やはり音楽で食べていくのは厳しい…」となったとしましょう。家族もできたりすれば尚更です。いくら共働きだったとしても、子供を食べせるのに月の収入が15万はあまりに厳しいでしょう。
ただここで考えたいのは、「30歳で音大卒、音楽関係のことばかりやってきた人」を欲しいと思う企業がどのくらいいるかということです。
もちろん、評価してくれる企業はあると思います。ひとつのことに長く打ち込んできた経験は、大きなセールスポイントになります。
一方で、資格もないのであれば、本当に「なんでうちなの?」状態ですし、明らかに「音楽諦めた人」と見られるのは避けられません。
その状況で転職活動というのは、本当に大変な戦いになると思います。
奨学金を借りて、私立音大に行くということ
というわけで、ずいぶん脅しのような文章になってしまいましたが、私が高校生だった時にこのくらいリスクを示してくれる人はいなかったので、書いてみました。
ただこの文章を読んで 「音大やめようかな」と思っているなら、もう少し考えてみてほしいです。
たしかに、リスクはすごくあります。大卒23歳で800万の借金。あなたの技術レベルと伸びしろはわからない、就職もうまく行かないかもしれない、音楽の道で食べ続けるのだって厳しいかもしれない。
一歩でも踏み違えたら、真っ逆さまに落ちるかもしれない。大学院や留学という道を選択して、奨学金の返済を遅らせて、30近くになってやっぱり音楽の道は難しいとなったら..?
でも一方で、そんなに絶望する必要はありません。
現に私はごっそり奨学金を借りて私立音大に行き、卒業後は音楽関係の企業に就職しましたが、ひとまず今は健康に過ごせてます。
それなりに幸せに暮らしていますし、楽器もちゃんと続けています。もちろん滞りなく返済しています。
音大に入った時は本当に底辺でしたが、毎日毎日頑張ったら、実技の成績は上位になりました。大切な人脈も築けたし、色々な経験ができたし、何より音楽というものを深く知ることができました。
そして、第一線で活躍している人々と話して、ものすごく視野が広がりました。
信じられないような努力をしている人、信じられないくらい素晴らしい音を奏でる人、信じられないような人間性の人。色々な人を見ました。
そうしたことは音大でないと得られない経験だったと思います。私は今、返済が大変ではありますが、800万借りて音大に行ったことに後悔はありません。
リスクと夢と現実。進路を考えるうえで参考になればと思います。
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